ISM製造業景況指数の年変化率と、S&P500の年変化率は連動する傾向にある。しかし足元、株式市場が利下げに伴う景気回復を急速に織り込んでいった結果、両者には大きな乖離が発生している。
ISM製造業景況指数とは
ISM製造業景況指数(ISM Manufacturing PMI)は、米国の製造業部門の経済活動を評価するための重要な指標である。これは、米国の供給管理協会(Institute for Supply Management, ISM)が毎月発表するもので、製造業の経済状況を測定するための主要な指標の一つである。
ISM製造業景況指数は、購買担当者の調査に基づいて算出される。具体的には、新規受注、生産、雇用、サプライヤー納期、在庫の5つの主要な要素について、製造業の購買担当者にアンケートを行い、その結果を元に指数を算出する。これらの要素は、それぞれの経済活動を示すために加重平均され、総合指数として発表される。
この指数の数値は、50を基準として解釈される。50を上回る場合、製造業は拡大していると見なされ、50を下回る場合は縮小していると見なされる。例えば、指数が55であれば、製造業が拡大していることを示し、逆に45であれば、製造業が縮小していることを示す。また、指数の変動は経済の先行指標としても重要視されており、投資家や政策立案者にとって重要な情報源となっている。
ISM製造業景況指数は、米国経済全体の健康状態を評価するための重要なバロメーターとして機能する。製造業は米国経済の中で重要な役割を果たしているため、この指数の動向は、GDPの成長率や失業率、インフレーションなどの他の経済指標にも影響を与える可能性がある。特に、製造業の新規受注の増減は、将来の経済活動の見通しを示す上で非常に重要である。
なぜISM製造業景況指数と株価パフォーマンスは高相関なのか
ISM製造業景況指数(ISM Manufacturing PMI)とS&P500の年変化率が高い相関を示す理由は、いくつかの重要な経済的メカニズムに基づいている。
まず、ISM製造業景況指数は製造業の健康状態を示す先行指標であり、新規受注、生産、雇用などのデータを通じて経済の先行きを反映する。製造業が好調である場合、これは経済全体の成長を示唆し、企業の収益が増加する期待が高まる。特にS&P500に含まれる多くの企業は製造業と密接に関連しており、製造業の活況が企業の業績向上に寄与するため、株価も上昇しやすい。
次に、ISM製造業景況指数の上昇は、投資家の経済成長に対する信頼感を強化する。これは、消費者支出やビジネス投資の増加を通じて、更なる経済成長を促進する。結果として、株式市場への資金流入が増え、S&P500の上昇につながる。
これらの理由から、ISM製造業景況指数とS&P500の年変化率は一般的に連動しやすい。しかし、乖離が生じる場合もある。例えば、ISM製造業景況指数が改善していないにもかかわらず、株価が上昇している状況が考えられる。
このような乖離が生じる理由の一つは、金融政策や市場の流動性である。中央銀行が低金利政策や量的緩和を実施することで、株式市場に大量の資金が流入し、株価が上昇することがある。この場合、実体経済が改善していなくても、金融緩和策による資金供給が株価を押し上げる要因となる。
また、企業の収益性や財務状況が良好であれば、製造業の現状が厳しくても株価が上昇することがある。例えば、コスト削減や効率化、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの戦略が成功し、企業の利益が改善される場合、株式市場はこれを評価し、株価が上昇することがある。
さらに、グローバルな経済環境や地政学的リスクも影響を与える。米国以外の地域での経済成長や需要増加が米国企業に利益をもたらす場合、製造業の国内指標が低調であっても、株価が上昇する可能性がある。特に、S&P500に含まれる多国籍企業が海外市場での収益を増加させている場合、国内製造業の動向と乖離が生じることがある。