上記グラフは、MSCI新興国株指数とMSCI ACWI指数の相対指数と、ドルインデックスを表示したものです。青線の上昇は新興国株のアウトパフォームを、下落はアンダーパフォームを表します。
ドルインデックスが強い、つまり世界的なドル高の時、新興国株はアンダーパフォームする傾向にあることが分かります。また逆も然りで、ドル安の時、新興国株はアウトパフォームする傾向にあります。
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ドル高の時、新興国株がアンダーパフォームする理由
ドル高の時に新興国株がアンダーパフォームする理由はいくつかあります。以下にその主な要因を解説します。
まず、外貨建て債務の増加負担があります。多くの新興国企業や政府は、資金調達のためにドル建てで債務を発行しています。ドル高になると、これらの債務の返済コストが現地通貨ベースで増加します。たとえば、現地通貨がドルに対して価値を失うと、同じドル額の返済でも現地通貨で見た場合の負担が増大します。この結果、企業の利益が圧迫され、財政負担が重くなるため、株価が下落しやすくなります。
次に、資本流出の問題があります。ドル高に伴い、アメリカの金利が上昇する傾向があります。アメリカの金利が高くなると、投資家はより高い利回りを求めて新興国から資金を引き上げ、アメリカに投資をシフトします。これにより、新興国市場からの資本流出が加速し、株価が下落することになります。この現象は「キャピタルフライト」と呼ばれ、新興国市場の流動性を低下させ、さらなる株価の下落を招くことがあります。
さらに、輸入コストの上昇も大きな要因です。新興国はしばしば原材料や資本財を輸入に依存しています。ドル高になると、これらの輸入品のコストが増加し、企業のコスト構造が悪化します。たとえば、原油や機械設備などの輸入価格が上昇すると、製造コストや運営コストが増え、企業の利益率が低下します。その結果、株価にネガティブな影響を与えます。
通貨安によるインフレ圧力も新興国株のアンダーパフォームに寄与します。ドル高は新興国通貨の価値を相対的に下げ、この通貨安は輸入品価格を上昇させ、インフレ圧力を高めます。インフレが進行すると、消費者の購買力が低下し、国内の消費需要が減少します。これが企業の売上と利益に悪影響を及ぼし、株価の下落要因となります。
また、政治・経済の不安定化も見逃せません。ドル高が進行すると、新興国の経済状況が不安定化することがあります。高い債務負担やインフレ圧力により、政府や中央銀行が適切な経済政策を実施するのが難しくなります。これが政治的不安定を引き起こし、市場の信頼を失うことにつながります。政治的不安定は投資家の信頼を揺るがし、資本流出を加速させ、新興国株の下落を促進します。
最後に、グローバルなリスク回避の動きも重要です。ドル高はしばしばグローバルなリスク回避のシグナルとされます。投資家はリスクの高い新興市場から資金を引き上げ、安全資産とされるドルやアメリカ国債に資金を移動させます。この動きが新興国株のアンダーパフォームを促進します。ドル高が進行する中で、リスク回避の心理が強まると、新興国市場からの資金流出がさらに加速し、株価の下落が続くことになります。
以上のように、ドル高の状況下では複数の要因が相互に作用し、新興国株がアンダーパフォームする傾向があります。
ドル安の時、新興国株がアウトパフォームする理由
ドル安の時に新興国株がアウトパフォームする理由はいくつかあります。以下にその主な要因を解説します。
まず、外貨建て債務の負担軽減があります。多くの新興国企業や政府はドル建てで債務を発行しているため、ドル安になるとこれらの債務の返済コストが現地通貨ベースで減少します。現地通貨がドルに対して価値を上げると、同じドル額の返済でも現地通貨で見た場合の負担が軽減されます。この結果、企業の財務状況が改善し、利益が増加するため、株価が上昇しやすくなります。
次に、資本流入の増加が挙げられます。ドル安に伴い、アメリカの金利が低下する傾向があります。アメリカの金利が低下すると、投資家は高い利回りを求めて新興国市場に資金をシフトします。これにより、新興国市場への資本流入が加速し、株価が上昇します。特に、成長ポテンシャルが高い新興国市場に対する投資が増えることで、株式市場全体が活性化します。
さらに、輸出競争力の向上も大きな要因です。ドル安になると、新興国の通貨価値が相対的に上昇し、これにより輸出品の価格競争力が向上します。輸出が経済の重要な部分を占める新興国では、輸出産業の業績が向上しやすくなります。輸出の増加は企業の売上と利益を押し上げ、それが株価の上昇につながります。
通貨高によるインフレ圧力の緩和も新興国株のアウトパフォームに寄与します。ドル安は新興国通貨の価値を相対的に上げるため、輸入品の価格が低下しやすくなります。輸入コストが低下することで、インフレ圧力が緩和され、消費者の購買力が向上します。これにより、国内の消費需要が増加し、企業の売上と利益が向上します。結果として株価が上昇することになります。
また、政治・経済の安定化も見逃せません。ドル安が進行すると、新興国の経済状況が安定しやすくなります。債務負担の軽減やインフレ圧力の緩和により、政府や中央銀行が適切な経済政策を実施しやすくなります。これが政治的安定をもたらし、市場の信頼を高めることにつながります。政治的安定は投資家の信頼を強化し、資本流入を促進し、新興国株の上昇を支えます。
最後に、グローバルなリスク選好の高まりも重要です。ドル安はしばしばグローバルなリスク選好のシグナルとされます。投資家はリスクの高い新興市場に資金を移動させ、高いリターンを求めます。特に、成長ポテンシャルの高い新興国市場に対する投資が増えることで、株式市場全体が活性化し、新興国株がアウトパフォームしやすくなります。
以上のように、ドル安の状況下では複数の要因が相互に作用し、新興国株がアウトパフォームする傾向があります。外貨建て債務の負担軽減、資本流入の増加、輸出競争力の向上、インフレ圧力の緩和、政治・経済の安定化、そしてリスク選好の高まりが、新興国株のパフォーマンス向上を支える主要な要因となります。
ドル安になる金融環境とは
ドル安になる金融環境とは、米ドルの価値が他の通貨に対して低下する状況を指します。この現象は、複数の経済的および金融的要因によって引き起こされます。以下に、ドル安になる金融環境について詳しく解説します。
まず、低金利政策が一つの重要な要因です。米国の中央銀行である連邦準備制度(FRB)が金利を低く設定すると、ドルの魅力が減少します。低金利環境では、投資家はより高い利回りを求めて他の通貨や資産に資金を移動させる傾向があります。この資本の移動はドルの需要を減少させ、その結果、ドルの価値が下がります。
次に、量的緩和(QE)政策もドル安を引き起こす要因となります。量的緩和は、中央銀行が市場に大量の資金を供給することで経済を刺激しようとする政策です。FRBが大量のドルを市場に供給すると、ドルの供給が増え、相対的に価値が下がります。この追加の流動性は、ドル安を促進する要因となります。
経常収支の赤字もドル安の要因です。経常収支は、国の貿易収支や投資収支を含む広範な経済指標です。経常収支が赤字の場合、米国は他国からの輸入が輸出を上回っていることを意味します。この状況では、米国は他国からの資金流入に依存しているため、ドルの需要が減少し、その価値が低下します。
また、政治的不安定や経済成長の減速もドル安を引き起こす要因となります。米国内の政治的不安定や経済成長の鈍化は、投資家の信頼を損なう可能性があります。投資家はリスクを避けるために資金を他の通貨や資産に移動させるため、ドルの需要が減少し、その価値が下がります。
さらに、国際的な要因もドル安に影響を与えます。例えば、他の主要経済圏(ユーロ圏や日本など)が引き締め的な金融政策を採用している場合、これらの地域の通貨が強くなる一方で、ドルが相対的に弱くなることがあります。また、地政学的なリスクや国際貿易の動向もドルの価値に影響を与える要因となります。
最後に、市場の心理も重要な要因です。市場参加者の期待や予測がドル安を促進することがあります。例えば、FRBが将来的に金利を引き上げないとの予測が広がると、投資家はドルを売り、他の通貨に投資することが増えます。このような市場の動きが、ドル安をさらに加速させることがあります。
以上のように、ドル安になる金融環境は多岐にわたる要因によって形成されます。低金利政策、量的緩和、経常収支の赤字、政治的不安定、経済成長の減速、国際的な要因、そして市場の心理が相互に作用し、ドルの価値を低下させるのです。