米国財政には失望した:政府閉鎖にも拘わらず財政赤字は拡大

アメリカ政府の最新の財政状況は、私含め、多くの投資家を失望させる結果となりました。市場ではほとんど注目されませんでしたが、25日火曜日に、アメリカ政府の財務省は、10月の財政収支を発表いたしました。今回はその内容と、自分の資産を守るために把握しておくべきことについて、お話します。

まずはこちらのチャートをご覧ください。これは、アメリカ政府の月ごとの財政状況をまとめたもので、財務省が直々に作成しております。グラフは、月ごとの財政収支を表しており、緑色の棒グラフが税収などの収入額でプラスの値、青色の棒グラフが支出額でマイナスの値、そして赤茶色の棒グラフが収入と支出を差し引きした財政収支を示しております。

まずは、赤茶色の財政収支に注目してください。一番右のグラフが最新の10月のデータです。財務省によると、10月の財政収支は、2840億ドルの財政赤字となりました。一番左の去年の10月のデータと比べてみてください。前年比で見ると、去年の10月から財政赤字額は10%増加しています。なんと増加しているんです。

おかしいですよね。なぜおかしいのかというと、みなさんも記憶に新しいかと思いますが、10月は丸々1ヶ月間、アメリカ政府は閉鎖されておりました。通常、政府閉鎖が起きると、法律で義務付けられた必要支出以外はすべて、停止されます。つまり、普通に考えれば、政府閉鎖によって支出は大きく減少し、その結果、財政赤字も改善されるはずです。そうですよね。しかし財政赤字は悪化しているわけです。

状況を確認するために、青色のグラフに注目してください。先ほど申し上げたように、青色は支出額を示しております。財務省によると、10月の連邦政府の支出額は、6890億ドルです。前年比で見ると、なんと18%も増加しています。政府閉鎖で予算がカットされているにもかかわらず、支出は増加しているんです。不思議ですよね。支出が予想外に増加した結果、財政赤字も拡大してしまったわけです。さすがにこれは不自然なので、中身を見てみたいと思います。

今お見せしているしているのは、月ごとのアメリカ政府の支出額の内訳を示したチャートです。先ほどのチャートと同様に、財務省が直々に作成しております。では、一番右の10月の支出額の内訳と、一番左の去年の10月の内訳を比較してみましょう。データを確認すると、去年から大きく膨らんでいるのは、オレンジ色で示されたメディケアです。

なぜこうも、メディケアの支出が増えているのかというと、一部の医療プログラムに対する11月の給付金が、10月に前倒しで支払われていたようです。つまり、11月に計上予定だった費用を、10月に前倒しで計上したというわけです。なんとなく見えてきましたね。

軍事費関連でも同様の前倒し支出が出ており、これらの前倒し分を除くと、10月の支出額は1000億ドル減少の6000億ドル弱となります。財政赤字はというと、1000億ドル減少の1800億ドルとなり、前年比で見ると約3割の減少となります。これはいいですね。政府閉鎖した分、支出は抑えられ、財政赤字も改善しているため、数字としても納得がいきます。ちなみに、今回の数字の違和感を生み出した給付金などの前倒しですが、これはよくあることなので、ぜひ覚えておいてください。

これで腑に落ちましたけども、残念ながら、依然としてアメリカ政府の財政に対する失望感は拭えません。というのも、先ほど申し上げたように、10月は政府閉鎖によって、法律で定められた必要支出以外の支出はすべて、ストップされていました。予算が無いからです。にもかかわらず、前倒し費用を除いても、1800億ドルの財政赤字が残ってしまうわけです。つまり、アメリカ政府は、必要支出をしているだけで、赤字になってしまう状況だということです。

支出の内訳をもう一度見てみてください。下から順番に、社会保障費、国債利払い費、メディケア、一個飛ばして国防費、所得保障、医療・保健関連費用となっています。いかがでしょうか。こうしてみると、どれも削ることが難しい必要経費ばかりです。つまり、裁量的な支出を極限まで減らしても、財政黒字はおろか、財政赤字すら満足いくほど改善しないということです。絶望的状況です。

なぜこうも必要支出だらけなのかというと、最大の要因は高齢化です。高齢化によって社会保障やメディケア、医療費が増加していきます。これらの費用は、数量も単価も上昇していく一方です。さらに、これらの支出に手を付けようとすると、当たり前ですが有権者からの批判を買うため、迂闊には削減できません。

だからこそトランプ政権は、水色で示されている国債利払い費を抑えるために、FRBに利下げをしろと圧力をかけているわけです。利払い費は、支払わないと市場からデフォルト認定されてしまいますので、もちろん必要支出ですが、金利を下げればその負担を減らすことは可能です。長期金利をコントロールすることは、FRBの流動性供給がなければできませんが、財務省短期証券等の短期金利であれば、利下げで十分です。そして財務省短期証券の需要を高めるために、ステーブルコインの法整備を整えたりしているわけです。

しかし、利下げによって利払い費を抑えることが仮にできたとしても、それ以外の必要支出の割合が高いため、支出をこれ以上削減することは困難になります。そこでトランプ政権が焦点を当てたのが、収入です。関税や景気刺激策によって、将来の税収を押し上げ、財政赤字を抑制しようとしています。しかしそれでも、財政赤字を解消することはできないので、せめてGDP比での財政赤字は縮小させようと、緊縮財政ではなく、経済成長に焦点を当てているわけです。ご理解いただけたでしょうか。この風刺画は面白いですね。関税は自分に返ってくることを見事に風刺しております。

では、我々投資家が把握すべきことについて、お伝えしたいと思います。最も重要なのは、断定するのはよくありませんが、アメリカ政府の財政赤字は解消できないということです。経済をデフレさせる勢いで歳出削減や増税を行えば、叶うかもしれませんが、そのようなことをする政権は当たり前ですがいません。

こちらのチャートをご覧ください。これは、会計年度ごとの連邦政府の累積財政赤字を示しております。このような形で、今年度も、来年度も、その次も、10年後も、財政赤字を計上し続けることになります。ということは、政府債務も減ることなく増加し続けます。これまでもそうですし、これからもそうなります。

先ほど申し上げたように、政府は財政赤字を解消することも、政府債務を減らすこともできないのなら、せめて債務の価値を下げようと、経済成長を促そうとします。経済成長とはインフレです。

いずれ、政府によってもたらされるインフレによって、FRBは金融引き締めを余儀なくされ、資産バブルは弾けることになりますが、残念ながら、財政赤字と債務は弾けません。

個人的には、資産を守るためにできることは、コモディティに分散投資しておくか、セクターロングショート戦略を取り入れるか、ドル資産から離れておくか、思い切ってドル資産をショートしておくかです。アメリカ政府が経済成長とインフレを助長させている間は、ドル資産に投資しなければ置いてかれますし、インフレが過熱する前に避難しなければともに沈んでいくことになります。

資産を守るためには、コモディティだけでなく、為替やオプションの知識も付けておいた方がいいと思います。今のうちに準備を進めていきましょう。

今回は以上です。ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。高評価のご協力もいただけますと幸いです。