OpenAIは緊急事態宣言(コードレッド)を発令した:投資家にとって何を意味するのか

今回は、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が発令した「コードレッド(緊急事態宣言)」について、考えていきたいと思います。投資判断にも関わる重要な内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。そして、前向きな話は出てこないということを、事前にお伝えしておきます。

ウォールストリートジャーナルによりますと、Googleの最新AIモデルGemini3の発表と、その性能の高さを受けて、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は、社内に「コードレッド」を発令しました。これは、ChatGPTに多くのリソースを投じて、AIモデルおよびサービスの改善に全力で取り組むということです。生成AIのパイオニアとも呼べるOpenAIの競合優位性は、ここ最近でだいぶ失われてきました。

株式市場はというと、このAIモデル育成レースを劇的に織り込んでいます。ついに、グーグル(アルファベット)の予想PERは、エヌビディアの予想PERを上回りました。青線がグーグルの予想PERで28.8倍、赤線がエヌビディアの予想PERで25.2倍です。この逆転現象をもたらしたのは、グーグルの新しいAIモデル「Gemini3」です。グーグルの新しいAIモデルは、ベンチマークテストでChatGPTを上回り、金融市場では、AIの市場シェアに大きな変化が起こると騒がれています。それを煽るかのように、Apple Intelligenceの開発に苦戦しているAppleが、Siriの新バージョンを動かすために、グーグルのAIモデルの導入を検討しているという一部報道もありました。グーグルの逆襲です。

ではなぜ、エヌビディアと比較しているのかというと、これにはチップが関わってきます。グーグルのAIモデルGemini3は、エヌビディアのGPUではなく、グーグルのTPUチップで動作しています。つまり、Geminiのユーザーが急増し、ChatGPTのシェアを食うことになれば、エヌビディアは困るということです。ちゃんというと、エヌビディアGPUの長期的に期待できる販売数量が低下するということです。単純です。チップ競争でいえば、Metaが自社のデータセンターでグーグルのTPUを使用する交渉を行っているとの報道もありました。要するに、グーグルは、AIモデルのシェアもチップのシェアも、かっさらおうとしているわけです。

サム・アルトマン氏が「コードレッド」を発令したのも頷ける競争環境です。アルファベットに全力投資されていた方、おめでとうございます。このトレンドが継続することを祈っています。

では、このAIモデル育成レースを、マクロ目線に落とし込むとどうなるかというと、簡単に言えば、札束の殴り合いが激化することを意味します。今お見せしているのは、S&P500全体の減価償却除く設備投資額と、アメリカの名目GDPの相対チャートです。計算式は、「減価償却除く設備投資額/名目GDP」です。つまり、経済規模に対する設備投資の過剰度合いを示しています。これは、あの2008年の金融危機前に住宅市場の崩壊に賭けた「世紀の空売り」で有名な、マイケルバーリ氏が作成したチャートです。バーリ氏はこのチャートを、「AIによるいじめっ子たちを論破できるチャート」と名付けて公開しました。性格がにじみ出たネーミングセンスです。

このチャートが示す最も重要なことは、設備投資サイクルは拡大と縮小を繰り返し、株式市場もそれに合わせて、サイクルのピーク前に高値を形成してきたということです。では、色のついた縦線に注目してください。赤線はドットコムバブルの時に、ナスダック指数が高値をつけた四半期を示しています。この頃は、ドットコムバブルとテクノロジー・メディア・通信ブームの影響で、設備投資比率は拡大していきました。株価はというと、サイクルピーク前に、高値をつけています。黄色の線は、住宅バブルの時に、S&P500が高値を付けた四半期を示しています。この頃は、住宅市場バブルを背景に、建設・素材業界の企業による設備投資が拡大しました。株価はというと、サイクルピーク前に、高値をつけています。紫色の線は、シェール革命の時にS&Pエネルギーセクター指数が高値を付けた四半期を示しています。この頃は、シェール革命を契機に、石油化学企業による設備投資が拡大しました。株価はというと、サイクルピーク前に、高値をつけています。そして今、クラウドやAIインフラへの投資、いわゆるハイパースケーラーたちによる設備投資サイクルを迎えています。足元の設備投資額の水準は、十分過熱しています。これは疑いようがありません。

そして、この札束の殴り合いは継続する見込みです。これは、マクロ目線での長期投資家からすれば、潮時かなと思わせる状況です。1%でも多く資産を増やしたいというリターン重視の投資家は、音がやむまで踊り続けるべきですが、リスク重視の資産防衛投資家にとっては、AI関連以外の銘柄や資産クラスに、目を向けるべきタイミングであるのは疑いようがなさそうです。数か月前にアルファベットを全力買いできるような先見の明があれば困らないですが、もしそんな神のような人がいたら、ぜひご連絡ください。

ついでに、設備投資関連でこちらのチャートもお見せします。これは、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、メタ、オラクル、いわゆるハイパースケーラーたちの設備投資額が、営業キャッシュフローの何パーセントを占めているのかを示しています。なんと足元、ハイパースケーラーたちは、営業キャッシュフローの60%を設備投資に費やしています。資金調達のために、社債も発行しまくっています。頑張って回収できることを祈っています。

正直言って、回収できるのかどうかを分析することは占いに近いんですが、いくつか判断材料になりそうなデータをお見せしたいと思います。今お見せしているのは、ChatGPTの週次アクティブユーザー数のチャートです。ビジネスインサイダーが、サム・アルトマン氏の発言や、各種分析データをもとに作成しています。ChatGPTの週次アクティブユーザー数は、10月に8億人にまで達しています。これは、世界の成人人口の10%以上を占めています。チャートを見てみると、見事に右肩上がりです。しかし、各ハイパースケーラーたちの設備投資や、今のAI銘柄のバリュエーションは、このモメンタムが継続するのが前提にあります。

続いてこちらは、企業のAI導入率のチャートです。国勢調査局のデータをもとに、アポロが作成しています。企業規模別でグラフは分かれています。チャートを見てみると、どの規模の企業でも、AI導入率は横ばいになりつつあるのが分かると思います。ここで重要なのは、このAI導入率というざっくりとした指標が何を表しているのかということです。

このデータは、国勢調査局のアンケート調査によって算出されています。零細企業から大企業まで、約120万社がサンプルに含まれており、地域別、業種別、規模別に各種データが集計されています。そして、アンケート用紙に書かれたAI導入に関する質問は、「商品やサービスの生産にAIを使ったか」という質問です。この質問に対して、イエスと答えた割合が、このAI導入率というわけです。

もう一点重要なのが、「商品やサービスの生産にAIを使ったか」という質問の”生産”という言葉です。これはAIの生産活用を指します。バックオフィスや業務支援、意思決定補助など間接的なAI活用であれば、それは”業務”活用です。”生産”活用ではありません。株式市場がAIに期待するのは、”生産”活用です。株式市場がAIに期待するのは、あらゆる産業での構造改革です。産業革命ならぬ生産性革命です。経済的にいえば、AIがGDP成長に大きく寄与することを期待しているわけです。そのためには、生産活動そのものへのAIの深い統合、つまり生産活用が必須です。このチャートは、その生産活用に関するAI導入率を示しています。このまま横ばいとなるのは非常に危険だということは、誰の目で見ても明らかです。

今回は以上です。yutakabu.comのサイトでは、毎日、注目チャートを更新しています。ぜひ暇つぶしにご活用ください。私のモチベーション維持のため、高評価・コメントのご協力いただけますと幸いです。