米国政府もFRBも株価を支えるしかない:富裕層依存のK字経済の脆弱性

アメリカ政府も、FRBも、株価を支えるしかない状況となっています。足元問題となっている富裕層依存のK字経済というのが解消されるのが先か、それとももっと酷い状況になるのが先か、アメリカ政府とFRB、そして金融市場は、いわばチキンレースを繰り広げています。こちらの絵のトランプ大統領も、どこか覚悟を決めたような表情をしています。

まずは、最も重要なアメリカ経済の現状をお伝えします。今お見せしているのは、富裕層の個人消費に関するチャートです。ブルームバーグが作成しています。具体的には、上位10%の所得層による消費が、アメリカ経済の個人消費全体の何パーセントを占めているのかを表しています。チャートを見てみると、驚くべきことに、上位10%の富裕層による消費のシェアは、足元なんと50%近くにまで上昇しています。経済の”根幹”となる個人消費の半分を、上位10%の富裕層がもたらしているということです。信じられませんが、これは事実です。

続いてこちらのチャートをご覧ください。これは、アメリカのGDPに占める個人消費の割合を示しています。セントルイス連銀のデータベースをもとに、yutakabu.comが作成しています。2000年代を見てみると、GDPのおよそ67,8%が個人消費で成り立っているのが分かると思います。この割合というのは、他の先進国と比べても高水準です。つまり、アメリカ経済は、個人消費が支えているということです。もっと言うと、個人消費に依存しています。そして、何度も言って恐縮ですが、そのアメリカ経済の”根幹”となる個人消費の半分を、上位10%の富裕層がもたらしているわけです。要するに、アメリカ経済というのは、富裕層に依存しているということです。ぜひ覚えておいてください。ただ、いまやどの国もそうだろうと、アメリカに限った話じゃないと思われるかもしれません。

なので、続いてこちらのチャートを確認していきたいと思います。これは各国における最も裕福な10%の人口による所得または消費のシェアを、グラデーションで示したものです。世界銀行が2024年のデータをもとに、作成しています。簡単に言えば、色が濃いほど、富裕層に依存している国だということです。世界地図を見てみると、意外なことに、ブラジルがかなりの富裕層依存であることが分かると思います。しかしこれは今回と関係がないので、スルーします。肝心のアメリカの色を確認してみると、他の国よりも依存度が高いことが分かると思います。つまり、アメリカ経済は、他の先進国よりも個人消費に依存しているうえに、富裕層依存も他の先進国より深刻だということです。もちろんこれを、アメリカの強みと捉えるのか、はたまた弱みと捉えるのかは人それぞれですが、個人的には、非常に脆弱な経済だと考えています。アメリカ経済が個人消費依存かつ富裕層依存であることを確認したところで、次に低所得者層の状況を確認していきたいと思います。

こちらのチャートは、サブプライム自動車ローンの60日以上延滞率のデータです。フィッチレーティングスのデータをもとに、ロイターが作成しています。チャートを見てみると、サブプライム自動車ローンの延滞率は、右肩上がりで上昇しています。そして、データ集計開始以来の過去最高記録を更新しています。最近、プライマレンドキャピタルやトライカラーといったサブプライム自動車ローン関連企業が立て続けに破綻したことからも分かるように、この市場は、足元危険な状態にあります。サブプライム層にとって、自動車は非常に大きな資産です。しかし正確に言えば、残念ながら負債と言った方がいいかもしれません。そんなサブプライム自動車ローンの延滞率が上昇しているという状況は、低所得者層が生活にますます苦しんでいるということを明確に表しています。金利の高止まりや生活費インフレの上昇、貯蓄の減少、雇用不安などにより、低所得者層の家計は圧迫されています。これは疑いようのない事実です。

続いてこちらのチャートをご覧ください。これは、所得層別の賃金上昇率を比較したチャートです。アトランタ連銀が作成しています。所得層は四文位されています。青色の線グラフが下位25%の低所得者層の賃金上昇率、水色の線グラフが上位25%の高所得者層の賃金上昇率です。チャートを見てみると、これまでずっと低所得者層の賃金上昇率は、他の層を上回って推移していたのが分かると思います。しかし、直近トレンドが転換しています。なんと、低所得者層の賃金上昇率が最も低くなっています。一方で、最も賃金上昇率が高いのは、上位25%の高所得者層です。ただでさえ、低所得者層は、高金利やらインフレやらで他の層よりも家計を圧迫されているのに、そのうえさらに賃金上昇率まで劣後しているとなると、状況は悲惨です。そして、残念なことに、このトレンドはそう簡単に覆るものではありません。賃金面でも、今後、格差はより広がっていくことになります。いわばK字経済です。

続いてこちらのチャートをご覧ください。これは資産額別の資産構成を示したものです。アポロが作成しています。左の方は、資産が少ない人の資産構成で、右の方は資産が多い人、富裕層の資産構成です。注目していただきたいのは、水色の資産と灰色の資産とオレンジ色の資産です。これは株式と401kと投資信託、いわゆる金融資産です。グラフを比較してみると、富裕層になればなるほど、これらの金融資産のウェイトが高くなっていることが分かると思います。ただ、超富裕層にもなると、大体が事業家なので、濃い青色の事業利益も膨らみます。一方で、一番左の、資産が10万ドル以下の層を見てみると、資産の大半を、家と自動車が占めています。しかし、彼らにとっておそらくこれは、資産というより負債に近い気がします。要するに、このチャートから読み取れる最も重要な事は、富裕層であればあるほど、金融資産のウェイト、規模は大きくなり、株価変動による資産効果は、富裕層であればあるほど高くなるということです。当たり前といえば当たり前ではありますが、今回の最も重要なポイントなので、データを用いて確認しました。

では、アメリカ経済の状況について確認したところで、次に、投資をするうえで意識すべきことについてお話します。アメリカ経済が富裕層の消費に依存しているということは、政府およびFRBは、経済を縮小させないために、何に気を付けなければいけないでしょうか。そうです、資産価格です。とりわけ株価です。株価変動による資産効果は、富裕層であればあるほど大きくなるということは、先ほどチャートを用いて説明したとおりです。もし株式市場がベア相場入りすれば、富裕層の資産効果は、他の層よりも大きくマイナスに働きます。そしてそれは、富裕層の消費に依存しているアメリカ経済が、鈍化・縮小する可能性が高まるということです。要するに、政府とFRBは、経済を縮小させないために、富裕層の資産効果をプラスにする必要があるということです。これは言い過ぎではありません。

こちらのチャートをご覧ください。これは20から24歳の失業率です。政府データをもとに、yutakabu.comが作成しています。以前、ベッセント財務長官は、アメリカ経済は底堅いが、一部のセクターは景気後退に陥っていると言及していました。これはそのひとつです。新卒層の失業率は9.2%にまで上昇しています。その水準とトレンドを過去と比較する限り、新卒層の労働市場は、景気後退入りしているといっても過言ではありません。サブプライム層も同様かと思います。

要するに、アメリカ経済は、なんとしても富裕層に支えてもらわなければいけないということです。低所得者層が回復するまで、富裕層には消費し続けてもらう必要があります。そのためには、政府もFRBも、株式市場を支え、資産効果をプラスにしなければいけません。株価が下がると、政府もFRBも態度を緩和させます。振り返ればずっとそうでした。なぜなら、景気後退を避けるためには、株価を下げてはいけないからです。変な話です。変な話ですが、いまや資産価格がアメリカ経済のドライバーになっているわけです。不健全な経済です。本来なら、資産価格は経済成長の結果となるべきところを、いまや資産価格が先行しているわけです。資産価格の上昇が経済を支えているという、不健全な構造、それがアメリカです。

そんなアメリカ経済ですが、政府とFRBの打つ手がなくなり、お手上げ状態になるのは、インフレが再燃してしまった時です。これはどうしようもありません。インフレがコントロールできなくなれば、一度経済を冷やすしかありません。また、AIに対する失望もどうしようもありません。これを避けるには、エヌビディアたちに、気味の悪い循環投資を続けてもらうしかありません。一番のハッピーエンドは、トランプ政権による減税政策とFRBによる金融緩和によって、低所得者層が救われることです。果たして救われるのでしょうか。富裕層依存のK字経済が解消されるのが先か、それとももっと酷い状況になるのが先か、今後も情報をアップデートしていきますので、ぜひ動画をチェックしてください。紹介したチャートはすべてyutakabu.comのサイトの方に掲載しております。チャンネル継続のため、高評価・コメントのご協力いただけますと幸いです。