テスラ株から逃げるべき? ― イーロン・マスクの新政党が実現する可能性

世界一の富豪であるイーロン・マスク氏は、トランプ大統領の看板法案『ひとつの大きくて美しい法案』を「完全に狂気で破壊的だ」と公然と批判し、『アメリカ党』という新たな政党の設立をほのめかしている。

発言:マスク氏は先週末、Xにて第三の政党となる『アメリカ党』を設立すると表明した。「国を無駄遣いと汚職で破産させる点で、わたしたちは民主主義ではなく一党制に生きている」「きょう、アメリカ党はあなたたちの自由を取り戻すために結成された」

新党の狙い:マスク氏は、財政面では保守派で、支出を抑制する政党を望んでいると示唆している。共和党にしろ民主党にしろ、債務を増大させることになるため、「一党制に生きている」と主張しているのだろう。新党の狙いは、決定票を握ることである。共和党と民主党という2つの大きな政党が拮抗している中で、アメリカ党が少数の議席を取ることで、法案や人事など重要な決定に影響を与えることを目指している。

共和党からの反応:トランプ大統領は6日、「第三の党を立ち上げるのは馬鹿げていると思う」「常に二大政党制だった。第三の党の立ち上げは混乱を助長するだけだと思う」と、大統領専用機に乗り込む前に記者団に語った。ベッセント財務長官は、「マスク氏の会社の取締役会はこれを許さないだろう」と述べた。

ここからは、新政党が実現する可能性、議席を獲得する可能性について考える。米国で第三政党が定着しにくい背景には、様々な構造的な壁がある。

まず、選挙制度そのものが二大政党を生みやすい設計となっている。下院も州知事選も、最も票を集めた候補が議席を総取りする小選挙区制を基本としている。この仕組みでは、得票率で二位以下の票が議席に反映されにくく、「自分の一票が無駄になるくらいなら勝ちそうな大政党候補に入れよう」という投票心理が働きやすくなる。

法務面のハードルもある。政党として名乗り上げるには連邦選挙委員会(FEC)への登録か、あるいは政治資金団体(IRSの527条団体)としての届け出が必要である。全国政党となるには、前者のFECによる承認が必要になる。これには資金や資金源の制限が設けられており、ハードルは高くなる。州に焦点を絞るのであれば、IRSの527条に基づく政治団体として届け出すればよく、ハードルは低いが政党としての格が下がる。今のところ、FECの最新資料には登録は確認できていない。

さらに、実際に選挙の候補者名を投票用紙に載せるには、各州の政党要件を満たさなければならず、強い有権者の支持が必要になる。おそらくマスク氏は、議席を獲得するために、ノースカロライナ州やジョージア州のように、選挙結果が接戦となる州をターゲットにするのだろう。

第三政党の歴史:第三政党が波紋を呼んだことは過去にもあった。1912年のセオドア・ルーズベルトの進歩党や、1992年のロス・ペローの改革党のように。しかしいずれも息は短かった。”The Demise and Rebirth of American Third Parties”の著者バーナード・タマス氏は、第三政党は歴史的にみて、二大政党のように議席を獲得するための実力や組織的歴史を持っていないため、長期的には機能しないと述べている。それでも、票を集めて主要政党に「多大な苦労」を強いることはできる。マスク氏もそのことは重々承知しての判断なのだろう。(言ってみただけかもしれないが)

要するに、新政党を実現し議席を獲得、議会に影響をもたらすためには、イーロン・マスク氏は相当尽力しなければならないということである。これまでの市場反応を見る限り、マスク氏がこの道を選べば、テスラ株はファンディングショートの対象となるだろう。彼の尽力なくして、ロボタクシーは成功するのだろうか。

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