
地政学リスクおよび貿易摩擦に対する懸念が、波はあるものの日に日に和らぎ、FRBによる利下げ再開期待と減税政策による企業収益底上げ期待が高まる中で、米国株は2日連続で最高値を更新している。

今日は貿易摩擦の懸念が和らいだ。米国最大の輸出市場であるカナダが、アマゾンやアルファベット、メタなどに打撃を与えるはずだったデジタルサービス税を撤回したことを受け、両国は7月21日という期限を設けて交渉再開と至った。

トランプ大統領は金曜日、デジタルサービス税は米国のテクノロジー企業に対する「直接的で露骨な攻撃」だと述べ、カナダとの協議を全て打ち切った。先週解説した見立て通り、脅しが効いたようだ。株価は、米国とカナダの貿易摩擦懸念で下落した分を取り返し、さらに上昇した。

ハセットNEC委員長は、テクノロジー企業への同様の課税を計画している他の経済圏との貿易交渉において、デジタルサービス税が「重要な部分」になると予想していると発言している。焦点はEUである。

ホワイトハウスのレビット報道官は、「トランプ大統領は来週、米国と誠意を持って交渉していないと判断された国に対する関税率を設定する予定だ」と述べた。同時に、「政権との協議に参加している国々には、合意に至るための猶予期間が与えられる可能性がある」とも伝えた。
ベッセント財務長官は、「誠意を持って交渉している国々もあるが、もし彼らの頑固さゆえに合意に至らなければ、4月2日の水準に逆戻りする可能性があることを認識すべきだ。そうならないように願っている」と主張している。

懸念点:市場は貿易摩擦の行く末を楽観視している。交渉の末、米国から諸外国に対する関税は10%となり、米国は輸出拡大・投資拡大につながる約束を取り付け、米国優位なディールで結末を迎える。交渉が進まなくても、「高関税を課すぞ、誠意を見せろ」と脅しを挟みつつ延期を繰り返す。関税コストは、諸外国企業と米国企業がある程度負担することで、消費者への影響は大して出ない。関税インフレ懸念は杞憂に終わり、近いうちに利下げ再開となる。
今のところ、市場の楽観見通しから大きなズレはない。だからこそ、株価は押し目を作ることなく、最高値更新となっている。

市場の楽観姿勢と最高値更新は嬉しいことだ。暴落時に買い増して、結局今年も二桁を超えるリターンを獲得できているという投資家も多いだろう。
しかし楽観が過ぎると、崩れた時のダメージが大きくなるのが気がかりである。リスクの火種は思ったよりも多い。トランプ大統領は本当に高関税を課すかもしれない。パウエルFRB議長が懸念するように、夏にインフレが加速するかもしれない。税制法案の採決が遅れ債務上限問題が再燃するかもしれない。セクター関税によって、相場を牽引した半導体セクターが売り浴びせられるかもしれない。

投資家は、数あるリスクを把握しておきながら、ポジションをコントロールしていく必要がある。株であれば、セクターやファクターを選んで投資すべきフェーズにある。