債務上限問題によるリスクオフを回避できるか

足元、上院で審議されているトランプ大統領の税制法案『ひとつの大きくて美しい法案』には、債務上限の引き上げが盛り込まれている。しかし、上院が提出しようとしている修正法案は、ぎりぎり通過した下院で再び反発を招きかねない内容となっている。下院の反感を買い、税制法案成立までの時間が長引けば、財政資金の枯渇が見込まれる「Xデー」が意識され、金融市場において債務上限問題が再燃してしまう可能性がある。

なぜ投資家にとって重要なのか:税制法案の可決(債務上限引き上げ)が遅れ、政府の特別会計措置による資金繰りが尽きる懸念が高まると、金融市場においてデフォルトリスクが顕在化する。デフォルトリスクが顕在化すると、金利が上昇し、株式市場が下落、ドルも下落する「リスクオフ(流行りの言葉を使うと米国売り)」が起きる可能性がある。

どうなると税制法案の成立が遅れるのか:上院が可決する修正法案を下院が受け入れなければ、目標である7月4日までの成立は困難になる。

足元、上院において、税制法案の修正案採決に向けて議論が進んでいる。上院で可決された修正案は、下院に返送され再び審議される。下院が修正内容をすべて了承し、同意となれば上院版がそのまま最終法案として大統領署名が行われる。

しかし、下院が修正内容に不同意となった場合は、両院から選出された協議委員による合同協議委員会が設置される。協議委員会ですり合わせた案を、上院・下院それぞれで採決し、可決した最終法案が大統領に送られる。

ブルームバーグによれば、上院共和党は今週半ばにも法案の採決に向けた複数段階にわたる手続きを開始し、週後半から週末にかけて最終可決を目指す構え。このスケジュールは、下院が反発しない前提のように思える。下院が同意しなければ7月4日には間に合わない可能性が高い。債務上限引き上げを囮に、上院修正案を押し切りたい狙いがあると考えられる。

下院は反発するのか:下院の反発を招きかねない上院の修正案として、『SALT控除の修正』と、『メディケイドの更なる削減』が挙げられる。

SALT控除の修正については、以前説明したように、ニューヨークやニュージャージー、カリフォルニアといった高税率州の共和党下院議員の反発を招く。これらの州の議員にとって、SALT控除上限の引き上げは重要事項であり、実際、下院での審議の際には、SALT控除を引き上げなければ法案に反対票を投じることも辞さないとしていた。上院の修正案可決前に、SALT控除上限について下院共和党と合意を交渉できなければ、下院で反対票が投じられることになるかもしれない。

日本時間24日11時ごろ、共和党上院と下院は合意に向けて協議を進めているとのニュースが流れてきた。合意が成立すれば、高税率州の議員らの反対票は免れる。

続いてメディケイド削減策の修正案も、下院の反発を招きかねない。上院はメディケイド削減策を、下院よりも踏み込んだ内容に修正しようとしている。具体的には、上院は州政府のプロバイダー税の上限を段階的に3.5%へ減らすことで、連邦政府の支出を抑えようとしている。

しかし、この修正は、赤字州の議員にとっては望まない修正である。特に南部・中西部の保守派議員からの反感を買うことになる。ホーリー上院議員は、メディケイドの改正により、税制法案は下院を通過できないと警告している。

地政学リスクがひと段落した今、市場の注目はトランプ政策に戻る。税制法案の動向には注意すべきである。

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