
共和党の上院議員はトランプ大統領が推進する税制法案について、州・地方税(SALT)控除上限を3万ドルとする案を検討している。下院を通過した法案のSALT控除上限は4万ドルだが、上院共和党はこれを少なくとも3万ドルまで引き下げようとしている。(現行法では上限1万ドルとなっている)

なぜ上院は控除上限を引き下げたいのか。財政赤字拡大懸念を少しでも和らげるため、少しでもコストを削減したいのである。(財政赤字拡大懸念については、これまでの動画を参照ください)その対象のひとつとしてSALT控除上限が選ばれた。控除の上限を従来の1万ドルから4万ドルに引き上げると、3500億ドルの税収減となってしまう。この額をなるべく抑えたいと上院は考えている。
では、SALT控除上限の引き下げによって、何が引き起こされるか。それは、財政保守派と穏健派との間での新たな対立、共和党内での不和である。そもそも、SALT控除上限の引き上げは、今回の税制法案を下院で通過させるために通さざるを得なかった内容である。
ニューヨークやニュージャージー、カリフォルニアといった高税率州では、住民が支払う州・地方税が1万ドルを大きく上回る場合が多く、現行の上限では控除しきれず、住宅価格や消費活動への悪影響が指摘されていた。
有権者救済を考えるこれらの州の議員にとって、SALT控除上限の引き上げは重要事項であり、実際、下院での審議の際には、SALT控除を引き上げなければ法案に反対票を投じることも辞さないとしていた。これらの議員が、4万ドルへの引き上げで、法案を支持したのかどうかは明らかではないが、説得材料になっているはずである。

そんな大事なSALT控除の条件に上院がくぎを刺したのは、先に説明したコスト削減目的もあるが、そもそも共和党上院には、高税率州を代表する議員がおらず、控除を引き上げるインセンティブがないからである。
話を戻すと、上院がSALT控除上限を引き下げることで懸念されるのは、これまでの説明で分かるように、共和党内での不和である。税制法案を下院で1票差でかろうじて通過させたジョンソン下院議長は、SALT修正を「非常に懸念している」と発言している。

上院での法案通過後は、下院で再審議が行われる。高税率州の下院議員らが法案に反対票を投じるかもしれない。投資家にとって避けたいのは、債務上限の引き上げがセットになっている税制法案の可決が遅れることにより、債務上限問題が再燃することである。共和党内での不和が発生するのかどうか、投資家は注視する必要がある。