
世界銀行は10日公表した最新の世界経済見通しで、2025年の世界実質GDP成長率予測を、従来の2.7%から2.3%に引き下げた。なぜか。トランプ政権による関税引き上げと不確実性の高まりが、ほぼ全ての経済にとって「大きな逆風」になっているからである。しかし、それと同時に、世界銀行のエコノミストたちは、トランプ大統領の貿易政策に対する(一部の)見解を支持した。

トランプ大統領の不確実な貿易政策の根底にあるのは、『世界が米国を不当に扱っている(他国は米国に高関税を課している)』という考えである。この考えに同調するかのように、世銀は今回の報告書で、多くの国が米国に対して相互の貿易アクセスを提供していないことを認めた。世銀のチーフエコノミストであるギル氏は、報告書の発表に先立ち「米国市場へのアクセスは一方的であり、これは持続不可能である」「高所得国から低所得国へと下がっていくにつれて、米国との関税格差はどんどん拡大していく。これは事実だ」と述べた。つまり、トランプ大統領と世銀はともに、米国と他国の間には(米国にとって)不公平な貿易関係が成り立っており、それを是正するべきだと考えている。

では、世銀もトランプ大統領の関税政策を妥当だと評価しているのか。それは違う。世銀は今回のトランプ関税によって、今年の世界経済成長の大幅な減速が引き起こされるとみている。では、世界経済及び米国経済にとって何が最適解なのか。それは、貿易障壁を撤廃することである。世銀は長年、グローバルな貿易障壁の削減を支持してきた。その世銀によれば、関税をかけ合うのではなく、相互に撤廃すべきであり、足元広がっている高所得国と低所得国の関税格差が解消されれば、世界経済はより成長する。しかし、トランプ大統領による「報復関税」は、一見すると世銀が望む方向とは真逆の方向、つまり保護主義に進んでいるように見える。
ここで考えたいのは、トランプ大統領による関税政策が、非難される通りの保護主義的な政策なのかどうかということである。トランプ大統領は、「世界が関税や非関税障壁を通じて、米国に不当な貿易を持ち込んできたため、この不平等な貿易を公正にするために相互関税を課す」、「彼らが25%なら、私たちも25%。彼らが10%なら、私たちも10%。そして、彼らが25%を大幅に上回るなら、私たちもそうする」と繰り返し発言している。
この考え方に従えば、他国がこれに対して報復をすれば再び不公正になってしまうため、米国は追加の関税を課すのは合理的である。つまり、米国以外の国々は、報復措置をとらずに、関税や非関税障壁を取り除いたほうがよいといえる。そうすれば、米国もそれに応えて関税を取り下げる。(かもしれない)
このやり取りの行き着く先はどこか。それは『保護主義』ではなく、世銀が望む『自由貿易』である。世銀の見立てが正しければ、他国が素直に貿易障壁を取り下げた先の未来には、更なる経済成長が待っている。(※トランプ大統領は基本関税10%を取り下げる気がありません)